Story9 夫編「生後5年目、初めての介護・育児」

日本の本社に戻り、初めて、念願のマーケティング部門に配属になりました。

入社前から憧れていたモノづくりの仕事、マーケター。

仕事はかなり難しいけどやり甲斐があります。

「なかよし学級」のサマーキャンプをきっかけに自分の中の価値観は家族と仕事の両立に舵が切られていたものの、それでも残念ながら、育児最優先までは変わりません。

それだけモノづくりという仕事、マーケティングという仕事にのめり込んでいったという事もあります。

だからこそ、介護・育児と仕事の両立の為、自分のプライベートな時間や、睡眠時間を削ってでも介護・育児に振り分けようと意識するようになりました。

幸い体力と忍耐力には自信があります 笑。高校時代から続けるラグビーのお陰です。

この頃から、睡眠サイクルを1時間半の倍数に設定し、※前日残業で遅くなろうとも4時間半なり3時間なり寝たら朝はきちんと起きて優大の経管栄養と薬をやるということを日課にするようになりました。

※レム睡眠とノンレム睡眠のリズムは1時間半周期なのでその周期で起きると少ない睡眠時間でも熟睡感が得られるため。

日本での家族一緒の暮らしが始まって漸く、僕に父親としての自覚が芽生えてきました。

優大の生後5年目にして初めての介護・育児です。

育児に積極的に関わるようになり、一番好きだったのはお風呂に入れる事でした。

優大は身体が大きくなり介助がなければお風呂には入れません。

でも彼はお風呂が大好きで、お湯に浸かると「ふぅ~」と声を出し目を細めて嬉しそうな顔をします!

大脳がないのにどうして感情を表す事ができるのだろう?

優大と一緒にお風呂に入る事で、生身の命の有難さ、愛しさを感覚的に経験する事ができました。

顔を見ているだけで癒される。

彼の至福の笑顔は全ての苦しみ、悩みを吹き飛ばすぐらいのパワーがありました。

逆に一番苦手だったのは薬をあげる事でした。

錠剤を乳ばちですり潰したり、色々な種類の袋を開け水と混ぜ合わせて鼻のチューブを通してシリンジで注入する。

感染を避けるため終わった後は綺麗に洗い台所に並べて干す。

この一連の作業がとにかく面倒臭く、彼の命の為と思っても長い間慣れることはありませんでした。。

うまれた時は、大脳がないから反応はできないし、言葉も喋れないと医師に言われていた優大。

でも笑顔で返事をするし、手を握り返したり、足ピーン(喜んでいる時に足を大きく前に伸ばす彼独特のしぐさ)と、感情を表現します。

周囲の人達の「生きて欲しい」という想いと愛情を受けて、優大の「心」が精一杯それに応え命を燃やしていました。

妻が話しかけ、優大が嬉しそうにニッコリ笑う姿は、親は当たり前ですが、看護師さんや介護サービスの担当さんも含めて、見ているだけで心がジーンとする瞬間でした。

ちょうどその当時、SMAPの「世界に一つだけの花」がヒットしていて、巷には歌が溢れている頃。

「一人一人違う花を持つ、その花を咲かせる為だけに一生懸命になればいい」

初めて歌詞を聴いた時、涙が止まりませんでした。

小さな身体で一生懸命に生きている優大を見ると、仕事の事やキャリアの事でいちいちクヨクヨする自分はなんとちっぽけな存在か。

もう必要以上に仕事にのめり込む事はやめよう。

仕事を理由にこの大事な命を犠牲にしてはいけない。

自分を戒めなければ、きっと自分は自己実現、自己成長の喜びに病みつきになってしまうだろう。

この目の前にあるこの純粋な命を思い遣る事を忘れてしまったら、なんの為の人生か分からないではないか。

自分の中に起こってきた感情、優大から教えてもらった事、妻の無償の愛情と献身的な介護に触れ、様々な経験が僕の中で融合した結果、僕の人生観は大きく変わりました。

※東京の社宅に越して来た頃の優大。

家に帰ると、この笑顔が待っていてくれました。

 

 

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優大とわたしたちの10年間の物語 目次

About Stories 「物語の前に」

Story1
妻編:「赤ちゃんにノウガナイ?」
夫編:「幸せな若夫婦への突然の報せ」

Story2
妻編:「悲しみと隣りあわせの幸せ」
夫編:「試練、負けるもんか」

Story3
妻編:「この腕に抱きたい」誕生へ
夫編:「産むのはおかしいことですか?」

Story4
妻編:「天からの贈り物」
夫編:「想像できなかった現実」

Story5
妻編:「発作との日々の始まり」
夫編:「いざ広州へ」

Story6
妻編:「中国で重度障がい児を育てる」
夫編:「いよいよ!家族揃っての駐在生活。。」

Story7
妻編:「必死だった日々も。。」
夫編:「妻任せの障がい児子育て」

Story8
妻編:「これでいい。だいじょうぶ。」
夫編:「なかよし学級で教えてもらったこと」

Story9
妻編:「失うことの恐怖。。希望へ」
夫編:「生後5年目、初めての介護育児」

Story 10
妻編:「優大チームの介護子育て」
夫編:「優大5歳、お兄ちゃんになる」

Story 11
妻編:「生きていることの奇跡」
夫編:「8歳の試練」

Story 12
妻編:「当たり前でない日々、10年」
夫編:「命は必ず尽きる、ライフワークは何か?」

Story 13
妻編:「命の最期のしごと 前編」
夫編:「そして、九州へ」

Story 14
妻編:「命の最期のしごと 後編」
夫編:「命日と誕生日、優大の旅立ち」

Story 15
妻編:「すべてが贈り物」
夫編:「3人家族、新しい生活」

Last story
妻編:「生きて!」ママへ、そしてかけがえのないあなたへのメッセージ
夫編:「4人で5人家族、優大学校からの学び」