Story4 妻編「天からの贈り物」

優大は生まれた。

様々な心配をよそに、彼はしっかりとこの地球の空気を吸い

「はぎゃ~ はぎゃ~」と声をあげて知らせたのだ。

ぼくは生まれてきたよ!と。

まん丸の輝く瞳をもって、まっしろい身体にはなぜか毛髪も体毛もなく、本当に神様みたいに美しい。

小児科の主治医からは、妊娠中に受けたそのままの診断の説明があった。

大脳が全てないこと。
寿命が数年以下であること。
どんなことが起こってくるかは症例が少ないのではっきりとは言えないこと。

もう十分に覚悟はできていたから、葛藤はほとんどなかった。

腕の中にいる我が子へのゆるがない愛だけで私はたちまち瞬間ごとに強くなる。

泣いてなんていられない。この子を育てるのだ!

嚥下といって、口を動かして飲み込むまでの作業がすでに不自由だったが、時間をかけて一生懸命に母乳をよく飲んだ。

産後すぐで退院し、小児科の小さいベッドで優大と一緒に寝泊まりしてお世話をする。

新米の母となった私は、彼を抱き、乳をやり、オムツをかえる、また抱き、乳をやり、

それができることの喜びはこれまでのすべての苦しみ、これからどうなるかという恐怖をも包み込んで、幸せにかえてしまう。

体重は日に日に増え、成長はすこぶる順調で、3週間程で退院となった。

重い障がいのある赤ちゃんを育てることになる私達に主治医は言ってくれた。

「お家に帰って、普通の赤ちゃんと同じように育ててあげてください。」

その病院でズタズタになった医療への信頼がまたもどったように感じた。

この言葉はお守りのように私の育児を助けてくれた。

この子が我が家のスタンダード、子育ての中で私達にそんな感覚がずっとあったのもこの言葉のおかげかもしれない。

これは後になって、同じ病院に勤める私の親友から聞いたことだが、私の主治医だった産婦人科の医師がその友人との話しの中で、優大の出産を通して大切な学びを得たこと、価値観が変わるような経験だったこと。

そんなことを話してくれたそうだ。

優大は他の赤ちゃんとは違うかもしれない、いや明らかに違うのだけど、だからこそ、とてもユニークな優大はそこにいてくれることだけで多くの気付きをもたらしてくれる。

当たり前、とは何か?

普通、とは何か?

命の重さに違いがあるのか?

そんな大切な気付きを。

優大には大脳がない。

それが何かモンダイになるかは私が決めることだ。

愛しくて仕方のない我が子を抱いて、私は病院を後にした。

すでに任地へと旅立った夫も戻り、実家の家族と一緒にお祝いをした。

テーブルに並んだ九州の美味しい海の幸などのご馳走、母や父、姉、賑やかな時間。

優大を囲んで笑顔が溢れる。

その夜、実家の離れにある和室で、初めて夫と優大と私で川の字になって眠る準備をしながら、私は心底幸せだった。

並んだ布団を見ると嬉しさが込み上げてくる。

慣れない手つきでオムツをかえるのに、てんてこ舞いな様子の夫。

大きな夫に抱かれて眠る小さな優大。

私の幸せはまぎれもなく、ここにある。

優大は私にとって贈り物だ。

それも今までの人生の中で最高の贈り物。

それからまた始まる試練のときにも、優大がここにいてくれる、ただそれだけで私は強くなる。

夫が戻り、優大の様子が急変するのは、それからすぐのことだった。

 

 

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優大とわたしたちの10年間の物語 目次

About Stories 「物語の前に」

Story1
妻編:「赤ちゃんにノウガナイ?」
夫編:「幸せな若夫婦への突然の報せ」

Story2
妻編:「悲しみと隣りあわせの幸せ」
夫編:「試練、負けるもんか」

Story3
妻編:「この腕に抱きたい」誕生へ
夫編:「産むのはおかしいことですか?」

Story4
妻編:「天からの贈り物」
夫編:「想像できなかった現実」

Story5
妻編:「発作との日々の始まり」
夫編:「いざ広州へ」

Story6
妻編:「中国で重度障がい児を育てる」
夫編:「いよいよ!家族揃っての駐在生活。。」

Story7
妻編:「必死だった日々も。。」
夫編:「妻任せの障がい児子育て」

Story8
妻編:「これでいい。だいじょうぶ。」
夫編:「なかよし学級で教えてもらったこと」

Story9
妻編:「失うことの恐怖。。希望へ」
夫編:「生後5年目、初めての介護育児」

Story 10
妻編:「優大チームの介護子育て」
夫編:「優大5歳、お兄ちゃんになる」

Story 11
妻編:「生きていることの奇跡」
夫編:「8歳の試練」

Story 12
妻編:「当たり前でない日々、10年」
夫編:「命は必ず尽きる、ライフワークは何か?」

Story 13
妻編:「命の最期のしごと 前編」
夫編:「そして、九州へ」

Story 14
妻編:「命の最期のしごと 後編」
夫編:「命日と誕生日、優大の旅立ち」

Story 15
妻編:「すべてが贈り物」
夫編:「3人家族、新しい生活」

Last story
妻編:「生きて!」ママへ、そしてかけがえのないあなたへのメッセージ
夫編:「4人で5人家族、優大学校からの学び」