Story12 夫編「命は必ず尽きる、ライフワークは何か?」

再び元気になってくれた優大を連れて、僕たち家族は今まで以上に積極的にお出掛けをするようになりました。

九州の実家に帰省して海辺でキャンプをしたり、ペンギン水族館に出掛けたり、

新宿のホテルにランチ飲茶を食べに行ったり、

1/2成人式に合わせて優大の10年間の軌跡=奇跡をまとめたフォトブックを作り、親族一同に声をかけて大温泉旅行に行ったりしました。

最近では健常児であっても1/2成人式というイベントをやるようで、今、次男のクラスでもその準備が行われています。
でも、優大にとっての10歳は重みが違いました。
その歳になる前に命が尽きる可能性もあったからです。
幸いにも、優大は試練を乗り越え10歳になりました。

家族全員が揃った毎日は幸せに溢れています。

そんな幸せな、優大のいる日常。

でも、僕の中にぽっかりと穴が空いたような心から人生を楽しめないそんな気持ちもありました。

優大を失う恐怖とかこの生活に終わりが来るとかそういう悩みではなく、僕自身の生き方についての悩みでした。

実は、優大が奇跡の復活を遂げたすぐ後、今度は僕が、高熱と激しい扁桃腺炎で2週間寝込みました。

物もろくに食べられず体重は5キロ減りました。

そんなに強いウィルス感染もなく、医師もそこまで重症化する検討が全くつかない。

振り返れば、それはひとえに過去に築いてきた価値観の崩壊に伴う、精神的ショックが原因だったと思います。

僕は世の中の大抵のことは頑張ればなんとかなると思っていました。

でも、どんなに労っても、どんなに大切に育てても、息子の命は必ず尽きるんだ。

そして、それが自然の摂理で、人間の力ではどうにもできない事なんだ。

それを実体験したことが30数年間生きてきて一番こたえました。

当たり前すぎて、シンプルすぎて、普段忘れてしまっている大切な概念「命は必ず尽きる」という事。

命が有限であるならば、自分はこれからどうやって生きてゆき、そして何を遺してゆくのか。

その頃に読んだ内村鑑三先生の「後生への最大遺物」という本に「勇ましく高尚な生涯を遺す」という言葉が出てきます。

優大の人生は本当に勇ましい。
彼の心や魂は美しく、高尚とはこういう事を言うのではないか?

それに対して僕はどんな生涯を遺すべきなんだろう?

仕事もプライベートも今の状態は中途半端なのではないか?

そんな風に思えて仕方がありませんでした。

自分の中の生きる活力が失われてしまった感じがしました。

キャリアコンサルタントに相談に乗ってもらったりもしました。

親しくしている商品開発コンサルタントの先輩・友人からの問い、

「仕事にはライスワーク(生きてゆく為に糧を稼ぐ仕事)とライフワークがある。あなたのライフワークは何?」

自分の中で、明確な答えが出せませんでした。

何の為に働いているのか、何の為に生きているのか。

あまりにも偉大な命の輝きに触れ、「一生懸命働いてがっちり稼ぐ」という事ぐらいでしか、自分の存在価値を確認する事ができなくなってしまいました。

そんな不安定な精神状態ではありましたが、仕事はきっちりこなしていたつもりです。

それでも上司からは、「手を抜いてないか?」「もっと本気を出せ!」「お前は何がやりたいんだ!」と叱咤激励される事が多かった記憶がありますが、

「何くそ!」という気持ちと「商品企画の仕事が楽しい」という気持ちが支えとなってなんとか生きていました。

親身になってくれるているからこそ、怒るエネルギーを自分に注いでくれていた上司には、本当に感謝しています。

そんな生活を1年半ほど送った頃、11年3月11日、東日本大震災が起こりました。

 

 

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