広州から日本に戻ってきて、日本の冬場の乾燥は優大にはとてもこたえました。

呼吸器系が強くなく喘息気味でもあったので、水分不足や、ちょっとした感染が原因で気管支炎に、酷い時は肺炎になってしまう事もありました。

鼻からチューブを入れ鼻や喉の奥に溜まった痰を綺麗にする、排痰と吸引という介護も頻繁になるし、

同じ姿勢のままだと痰が溜まりやすくなるので1~2時間置きに身体の向きも変えなければなりません。

冬はそういう介護がどうしても頻回になるので僕達の介護疲れもピークに達します。

ちょうど優大5歳の冬、妻が次男を妊娠しました。

元々子供は沢山欲しかったけど、妻が二の足を踏んでいたのはよく分かりました。

そして僕は僕でもう一人子供を授かる事に別な葛藤がありましたが、それは後で書きます。

妻が妊娠中に優大が軽い肺炎になり入院する事がありました。

それほど重篤な状態ではなかったけれども、呼吸も辛そうだし大事をとって入院させる事になりました。

妻はつわりが酷くなり介護も大変になってきたので、なるべく負担を軽減しようと、入院の付き添いも昼は妻、夜は僕という感じで二交代制にする事にしました。

都内にある優大かかりつけの子供病院は、入院時は完全介護で付き添いも不要でした。

ですが、優大は一人で入院すると精神的なストレスから胃出血してしまう事が多く、
病院に申請書を出して「本人の精神安定の為」という理由で付き添いを許可してもらいました。

介護ベットを借り、病院の個室のベットの横に寝泊まりをします。

看護師さん達は「普段、介護でお疲れなのだから、こういう時ぐらいはゆっくり休んで良いんですよ。」と言ってくれました。

子供が入院したから親は病院に頼って少しだけゆっくりする。

理解しにくいかも知れませんが、24時間完全介護が不可欠である重度障がい児介護の場合はこういう側面もあります。

そうは言ってもらうものの、夜中に3回ぐらいある体位交換の時には介護ベットから起きて排痰や吸引、体位交換の手伝いをしました。

「お父さん、寝ていて大丈夫ですよー」「全然大丈夫れす!」と半分寝ぼけた状態で返事をしたりしていました。

その頃、優大の入院の事を僕は「スクランブル」と呼んでいました。

映画「トップガン」で仲間を助ける為にトムクルーズが緊急発進するシーン。

体育会的な血が騒ぐのか、「俺がやらなきゃ誰がやる!」的なアドレナリンが出て、寝不足が1週間ぐらい続いても結構平気ではありました。

「俺、やればできるじゃん」妻に任せ切りの介護から自分も参加する介護へと変わってゆきました。

勿論、短期間だからできた事ですが、ほんの一瞬でも誰かが優大の命を見守る役目を代わってくれる事が精神的にどれだけ助けになるか、僕にも漸く理解できました。

妻が次男を妊娠した時、途中で少し発育不良のような診断を受けた事がありました。

もう一人障がい児が来るの?

その話を妻から聞いた時、自分はよっぽど神様に信頼されてるんだなあと思いました 笑。

ただ、不思議と障がい児をもう一人授かる事への不安というのがなく、
「まあ、なんとかするしかないよね」という感じです。

当時、海外部門で働いていて出張もとても多かったのですが、「流石にこの仕事は続けられないだろうから異動希望出さないとな」と、

優大と妻を日本に残して広州に単身赴任した時とは全く別な反応に自分でも不思議でした。

介護・育児への参加経験がリアリテイを伴って価値観の変化に繋がったのだと思います。

障がい児を授かるという事に対して、親として、色々思う所はあります。

どうなるの?という不安も、何故?という疑問も、どうすべき?という葛藤も、沢山起こります。

でも、優大を授かって思うのは「なんとかなる」という事。

受け入れられるし、こんな僕でさえ、介護もなんとかなりました。

だから、あとは天に任せて降りてくるのを待つのみ。
最後はそんな気持ちでした。

次男は結局なんの障がいもなく健常に生まれてきました。

生まれた時から活発でニコニコ笑い、我が家に明るさを届けてくれました。

優大と次男を見比べて初めて分かった事があります。

それは、どんな子であっても心の中の輝きは一緒。
それを表現する力が少し違うだけの、「個性」の範疇だという事です。

全力で生きる喜びを表現する次男と、

お風呂に浸かった時の一瞬の表情で生きる喜びを表現する優大。

一生懸命生きているという事は二人に共通していて、だから二人ともいつもキラキラ輝いている。

自分の中の人間観、人生観が、次男が加わった事でまた少し変化してゆきました。

※お兄ちゃんに興味津々の次男とその様子を目で追う優大。見ているだけで癒される瞬間です。

 

 

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