Last Story 夫編「4人で5人家族、優大学校からの学び」

優大が亡くなって半年を過ぎた頃、亡くなった事実を自然に受け入れられるようになりました。

仏壇に手を合わせては仕事の悩みや、対人関係で起こったことなどを相談したりしましたが、

優大はいつも「パパ、大丈夫!パパが思う通りにすればいいよ」と言っているように感じました。

職場では新しいミッションを任せてもらいました。

とても難易度の高い、かつ重要度の高い仕事でしたが、不思議と、迷いや気負い焦る気持ちもありませんでした。

優大を失ったあの瞬間。あんなに辛く大変なことはもう二度とないだろう。

「死」を受け入れることよりも大変なことなどない。

上司に何を言われようと、仕事が思うように進まなかろうと、そんなことはどうにでもなる。

今まで頑張ってくれた妻、介護・育児にいつも頑張っているお母さん達、この人達が本当に喜んでくれる商品を開発しよう。そして、俺は必ずヒット商品を出す。

不思議な覚悟と誓いが心の奥から湧いてきて、新チームの歓迎会の席上で、僕はみんなの前でそれを宣言しました。

思えば、想定しなかった事が起きた時、悩み、考え、最終的にはその現実を受け入れてゆく過程で、僕は人として成長しました。

23歳で結婚に踏み切った時、

24歳で突然父親になる事を知った時、

息子がハンディを抱えて生まれて来る事が分かった時、

優大の通学と通院の為に身分不相応なマンションを背伸びして買った時、

優大が本当に死んでしまうかもしれないと覚悟した時、

優大が本当に旅立った時。

その度に自分の価値観まで変える事を求められたけど、それによって気付けた事が沢山ありました。

40歳の自分は23歳の頃の自分よりも、確実に「生きる」という事の深い所を知っているし、何よりも大切な事は、いろいろあったけど、とにかく幸せな人生を今日も生きているという事。

優大を授かるずっと前、ものごころついた昔から漠然と感じていた「自分にはいつか、何か試練が訪れる」の試練とは、物理的な挫折や、社会的な失敗のことではなくて、自分が築き上げた価値観が一旦粉々に破壊されても、それでも前に向かって歩く事。

それは試練ではありましたが、人として生きる事の大きな喜びを伴った穏やかなものでした。

勝ち負けなんて関係ない。

全ての命はこの世界の大事な構成要素であり、全ての人間が幸せを感じて、心のおもむくまま好きなように、あるがままに生きて良い。そして、人生には必ず終わりが来る。

死を身近に経験した事で、クオリティオブライフを今まで以上に感じながら生きるようになりました。

内村鑑三先生の本「後生への最大遺物」をもう一度よく読み返してみました。

「誰にも遺すことのできる遺物で、利益ばかりあって害のない遺物がある。それが勇ましい高尚な生涯である。」という、昔読んで感銘を受けた名文の後段に文章が続いている事に気が付きました。

「この世は失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信ずることである。」

「この世は悲嘆の世の中でなくして、歓喜の世であるという考えを我々の生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということであります。」

何かを遺す!、と気負う必要など最初からなかったんだ。

ただ命を楽しんで、喜びと幸せを実感して生きてゆく。

そうすれば、その勇ましく高尚な生涯は、自然とこの世に遺されてゆくのだ。

優大と一緒に暮らしていた時のように、一瞬一瞬を大事に積み重ね、目を輝かせて毎日を生きて行く。

彼の命の輝きを心に刻み込んだ今、心からそれで良いと思えます。

優大が亡くなって暫く経ったある日に、不思議な夢を見ました。

真っ白な空の上みたいな所で、キョロキョロする僕を青年優大が迎えてくれる夢です。

顔はよく見えないけれど、沢山の人達が僕が生きた生涯を賞賛してスタンディングオベーションをくれます。

鳴り止まない拍手の中、僕は青年優大とハイタッチ!そんな夢でした。

優大が与えられた命を味わい尽くしたように、優大から受け取った命のバトンを持って、僕も人生を生き切りたい。

この宇宙とこの自然から命を与えられて、生かされている事に改めて感謝しています。

 

 

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