Story14 夫編「命日と誕生日、優大の旅立ち」

もう優大の意識はほとんどありませんでした。既に彼の肉体は限界を超えているように感じました。

とても冷たくなっていて、反応もほとんどありません。それでもかすかな自発呼吸と心臓の動きは続いていました。

いよいよ最期の瞬間がきました。

まるでドラマのように、先生から抱っこするように言われ、僕はベッドに座って優大を抱っこしました。

心拍と呼吸を示すモニターがフラットになった瞬間、心の底からの感謝と尊敬の念が沸き起こり、涙が溢れました。

心拍がドンドン下がってゆく間も、「まだ行くな!頑張れ!」という感じではもうなくて、とにかく感謝とお疲れ様だけでした。

「優大、パパとママを選んでくれてありがとう。また会う日まで、君の生き様に恥じないように、僕も一生懸命、毎日を大切に生きるよ。」

そんな事を想いながら、泣きながら、しばらくの間抜け殻になった優大を抱っこしていました。

優大は2011年4月19日、午前10時56分に、10年間の長い旅を終えお空に旅立ちました。

実は4月19日という日は僕の誕生日でもあります。

自分の命日が悲しむ日にならないように、パパの誕生お祝いの日を選んで旅立ちました。

この事が彼との縁の深さ、僕らの運命的な出会いを象徴していると感じます。

それから東京に戻るまで、僕の周りで不思議な事が沢山起こりました。

通夜の時と告別式の時、お経を唱える住職の前にはあぐら姿の優大が見えました。

通夜の日、いつも着ていた紫色のパーカーと紺色のズボン、トレードマークの青い帽子をかぶっていました。

「あ、いる!」ボンヤリと感じながら、お経を聞きました。

告別式の日、緑色のボーダーのシャツにハーフパンツ、青い帽子をかぶっていました。

その姿は、昨日よりも色が薄く、お経の最中もだんだんと色が薄くなっていきます。

お経の最後、喝の瞬間、彼は浮かび上がり光の粒になるとキラキラと飛び散って大気と一体になりました。

僕は「死」の意味を直感的に理解しました。

「そういう事なんだ。自然に帰る、暖かい光の粒。」

寂しさや悲しみが薄れ、自分の心の中に暖かい光が灯ったような気がしました。

後日、和尚さんに会いに行きその事を尋ねてみたら、

「それは自分には感じられなかったが、ラジオの周波数のようなものだから」と言っていました。

周波数、まさに魂と魂が繋がるというそんな経験でした。

それぐらい無心に、ただ優大の事を想って棺を見つめていたからこそ繋がれたのかもしれません。

亡くなって3日ぐらい経ち、通夜、告別式、火葬、各種の手続きが全て終わると何もする事が無くなりました。

優大が居た時は、夜の介護が気になるのであまり深酒をする事は
ありませんでしたが、お骨にしてお仏壇に供えた今その必要もありません。

毎日、ビールの後に焼酎を数杯飲み、そのまま酔っ払って寝てしまいました。

妻も義母も、そのことを何もとがめることはなかったけど、僕の事を心配している事は雰囲気で分かりました。

ある日、「優大のお仏壇の前で少し話さない?」と妻に誘われました。

妻と二人で遺影の前に座り、昔の思い出を語りながら軽くビールを飲みました。

「不便だったけど、すごく幸せだった。今は身体に触れないのが
不便だけど、変わらず幸せ。」
自分の中から自然と言葉が出てきて、その瞬間、風もないのに
ろうそくの灯がブルブルと震えました。

まるで優大がうなずいているような感じでした。

その日を境に、僕は少しづつ新しい日常を歩き始めました。

ある日、妻が大好きな場所、長崎の遠藤周作記念館に出掛けてゆき、みんなで海を眺めていた時、次男が突然、海に向かって「ゆうだーい!」と叫びました。

空と大地に境目がないように、優大のいる世界と僕らのいる世界も繋がっている。

優大は空から見守っている、僕の心の中に居てくれる。

そう感じられるようになって、彼の身体が無くても何とかやっていける気持ちになりました。

 

 

 

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優大とわたしたちの10年間の物語 目次

About Stories 「物語の前に」

Story1
妻編:「赤ちゃんにノウガナイ?」
夫編:「幸せな若夫婦への突然の報せ」

Story2
妻編:「悲しみと隣りあわせの幸せ」
夫編:「試練、負けるもんか」

Story3
妻編:「この腕に抱きたい」誕生へ
夫編:「産むのはおかしいことですか?」

Story4
妻編:「天からの贈り物」
夫編:「想像できなかった現実」

Story5
妻編:「発作との日々の始まり」
夫編:「いざ広州へ」

Story6
妻編:「中国で重度障がい児を育てる」
夫編:「いよいよ!家族揃っての駐在生活。。」

Story7
妻編:「必死だった日々も。。」
夫編:「妻任せの障がい児子育て」

Story8
妻編:「これでいい。だいじょうぶ。」
夫編:「なかよし学級で教えてもらったこと」

Story9
妻編:「失うことの恐怖。。希望へ」
夫編:「生後5年目、初めての介護育児」

Story 10
妻編:「優大チームの介護子育て」
夫編:「優大5歳、お兄ちゃんになる」

Story 11
妻編:「生きていることの奇跡」
夫編:「8歳の試練」

Story 12
妻編:「当たり前でない日々、10年」
夫編:「命は必ず尽きる、ライフワークは何か?」

Story 13
妻編:「命の最期のしごと 前編」
夫編:「そして、九州へ」

Story 14
妻編:「命の最期のしごと 後編」
夫編:「命日と誕生日、優大の旅立ち」

Story 15
妻編:「すべてが贈り物」
夫編:「3人家族、新しい生活」

Last story
妻編:「生きて!」ママへ、そしてかけがえのないあなたへのメッセージ
夫編:「4人で5人家族、優大学校からの学び」